『息吹』(原題:Exhalation)は、テッド・チャンが執筆し、日本では早川書房から出版されたSF短編集です。
収録された短編は、ヒューゴー賞・ローカス賞・星雲賞などを受賞。
大学でコンピュータ・サイエンスを専攻し、テクニカルライターとして活躍中の著者ならではの9篇を楽しめます。
この記事では、それぞれの簡単なあらすじと、著者をご紹介します。

「息吹」とは?

テッド・チャン著『息吹』は、9篇が収録されたSF短編集です。
「商人と錬金術師の門」が、2008年ヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞、
「息吹」が2009年ヒューゴー賞・ローカス賞・英国SF協会賞を受賞しました。

英語版は短編集『Exhalation』として、2019年5月に刊行。
日本語版では2019年12月に、大森望 訳で早川書房から出版されています。

あらすじ

9つの短編の、簡単なあらすじをご紹介します。
これらの作品はどれも独立していますので、どの短編から読み始めても大丈夫です。
邦題のあとに原題(英語)を記します。

「商人と錬金術師の門」

The Merchant and the Alchemist’s Gate

ヒューゴー賞、ネビュラ賞を受賞。
いわゆる「タイムトラベルもの」。
イスラム世界を舞台に繰り広げられる、錬金術師の<門>についての物語。
商人バシャラートが語る複数の事例を聞いた後、主人公フワラードは…。

「息吹」

Exhalation

ヒューゴー賞、ローカス賞、英国SF協会賞を受賞。
「古来、空気(余人はアルゴンと呼ぶ)は生命の源であると言われてきた。」
から始まる、主人公が息吹について研究する物語です。

「予期される未来」

What’s Expected of Us

「これは警告だ。」から始まる短編。
予言機が普及している世界が舞台で、自由意志は存在するのか? というテーマです。

「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」

The Lifecycle of Software Objects

ヒューゴー賞を受賞した、AIを育てる物語。
仮想世界から始まり、物理ボディ、掲示板の投稿、タイトルにもあるソフトウェアのサイクルなどなど。
AIだけでなく、AIの作り手である人間の人生も垣間見える作品となっています。

「デイシー式全自動ナニー」

Dacey’s Patent Automatic Nanny

とある心理学者が、子どものために特別なゆりかごを設計したお話です。
このお話を作った経緯は『作品ノート』に詳しく書かれています。

「偽りのない事実、偽りのない気持ち」

The Truth of Fact, the Truth of Feeling

生活記録(ライフログ)をテーマにした、事実と気持ちに関する物語。

「大いなる沈黙」

The Great Silence

人類と地球外知的生命体とのコミュニケートについて。

ちなみに文中にある「アレシボ」とは、プエルトリコに実在するアレシボ天文台のこと。
地球外知的生命体探査との関わりが深く、改装記念式典で宇宙に送信された「アレシボ・メッセージ」が有名です。

「オムファロス」

Omphalos

ギリシア語で「へそ」を意味する「Omphalos」。
信心深い女性考古学者の日記形式で語られる、天地創造と科学の物語です。

「不安は自由のめまい」

Anxiety Is the Dizziness of Freedom

時間線が分岐した並行世界と通信ができるプリズム。
自分と違う行動や決定をしたパラレルの自分を見て、人はどのように感じ、影響されるのか…?

作者:テッド・チャンについて

テッド・チャンは1967年アメリカ合衆国生まれ。両親は中国からの移民です。
アメリカにあるブラウン大学を卒業しています(コンピュータ・サイエンスを専攻)。

本業はフリーランスのテクニカルライター(専門的な技術に関する文書を書くライター)。
専業作家になるつもりはないと語っており、寡作(かさく、制作数が少ないこと)として知られています。

高校生の頃から短編を投稿していたテッド・チャン。
契機となったのは、合宿制SF創作講座「クラリオン・ワークショップ」でした。
講師の1人がテッドの作品を編集者に紹介したことで、作家デビューを果たしたのです。
デビュー作の短編「バビロンの塔」(原題:Tower of Babylon)は、1991年にネビュラ賞を受賞しました。

2007年には「世界SF大会 日本大会」のゲスト作家として、公開インタビューを受けるために来日。
なんと、聴衆が多くなったためにホールが変更されたほど盛況だったそうです。
日本語版『息吹』目次の前に書かれた「日本のみなさんへ」でも、その時の様子を著者自身が記しています。

テッド・チャンとの初遭遇――『息吹』訳者・大森望氏の横浜世界SF大会日記|Hayakawa Books & Magazines(β)

他の作品

『あなたの人生の物語』

映画『メッセージ』の原作である「あなたの人生の物語」、デビュー作「バビロンの塔」など、8編を含む作品集です。

「バビロンの塔」
「理解」
「ゼロで割る」
「あなたの人生の物語」
「七十二文字」
「人類科学の進化」
「地獄とは神の不在なり」
「顔の美醜について――ドキュメンタリー」

映画『メッセージ』

映画『メッセージ』 ソニー・ピクチャーズ公式サイト

監督は『ブレードランナー 2049』などで有名なドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演は『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』など、多くの作品に出演するエイミー・アダムスです。

amazon prime video『メッセージ』(字幕版)
amazon prime video『メッセージ』(吹替版)

参考サイト

テッド・チャン『息吹』ついに発売! 翻訳・大森望氏によるあとがきを公開します|Hayakawa Books & Magazines(β)

テッド・チャン – Wikipedia