「かがみの孤城」は、2018年本屋大賞を受賞した小説です。
2017年5月11日にポプラ社から刊行されました。
学校へ通えずにいる7人の少年少女が、鏡から不思議な孤城に通う日々を綴った作品。
繊細な感情描写、鮮やかに明かされるミステリー要素など、作家・辻村深月を代表する感動的な小説となっています。
本屋大賞だけでなく、
「王様のブランチ ブック大賞2017」
「ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2017」
「埼玉イチオシ本2017」
「第11回神奈川学校図書館員大賞」
「熊本県学校図書館大賞2017」
「啓文堂書店文芸書大賞」
など、多くの賞を贈られているこの作品。
ネタバレなしでこの作品の魅力をお伝えしたい! この一心で、解説を綴ってみました。
目次
1:「かがみの孤城」あらすじ
主人公の安西こころは中学一年生、訳あって学校を休んでいる女の子です。
5月のある日、自分の部屋に置いてある鏡がまばゆく光っていることに気が付きます。
恐る恐るさわってみると、こころは吸い込まれるように鏡の中へ!
その先には、立派なお城と狼の頭をした女の子”オオカミさま”がいました。
こころは6人の中学生とともに、”オオカミさま”から以下のことを教わります。
・城のどこかに「願いの部屋」があり、見つけた1人だけが願いを叶えてもらえる。
・願いの部屋に入るには、鍵を探す必要がある。
・3月30日までに見つからなければ、城は閉じ鏡と繋がらなくなる。
・城に入れるのは日本時間で午前9時から午後5時まで。
・ルールを守らなければ、狼に食われる。
城が開いている時間に来ないのも自由、鍵を探すも探さないのも自由。
中学生たちの奇妙な生活が始まります…。
物語はこころを中心にして進みますが、中盤からはこころ以外のエピソードも展開されます。
恋愛の話や日常生活、お互いの学校生活、などなど。
なぜ彼らは孤城に集められたのか?
”オオカミさま”の正体は?
「願いの部屋」はどこにあるのか?
これらが徐々に明かされていきます。
ジャンル分けするのが難しいこの作品。
あえて言えば、ミステリーやファンタジーが混じった文芸作品になるでしょうか。
参考サイト
「かがみの孤城」ポプラ社
「かがみの孤城 辻村深月」特設サイト ポプラ社
2:登場人物たち
こころ(中一)の他に城へ招かれたのは、この6名。
アキ(中三)ポニーテールのしっかり者の女の子。
リオン(中一)イケメンの男の子。
フウカ(中二)眼鏡をかけた、声優声の女の子。
マサムネ(中二)ゲーム機をいじる、生意気そうな男の子。
スバル(中三)ハリーポッターのロンみたいなそばかすの、物静かな男の子。
ウレシノ(中一)小太りで気弱そうな、階段に隠れた男の子。
(紹介の文章は本文より引用)
他にも、「こころの教室」というスクールの喜多嶋先先生や、こころの母親、担任である伊田先生や同級生たちが登場します。
そして時々孤城に現れる、”オオカミさま”。
かわいらしい洋服の女の子ですが、なぜか顔にはオオカミのお面。
神出鬼没、ひょうひょうとした言動で主人公たちを惑わせます。
表紙にも描かれている通り、少し不気味な存在です。
3:「かがみの孤城」の魅力
きめ細やかな感情の描写
何といっても、若者(少年少女・青年)がそれぞれに体験する、繊細な感情の動き。これが感動を誘います。
不登校になってしまったこころの罪悪感や、少年少女たちそれぞれの事情。
こころをそれぞれの視点から見つめる母親や担任、同級生たち。
登場人物たちのやりとりも悲喜こもごも。
交流し心を開いていくうちに変化していく関係性は、現実と同じく複雑かつ色鮮やかです。
若い読者にとっては、今自分が抱いている状況・感情を代わりに表現してくれているように思えるでしょう。
大人にとっては、かつて自分が感じていた気持ちを追体験できるような感覚になるでしょう。
「かがみの孤城」もまさしく、万人の心に響きかける作品となっています。
これこそが、作家「辻村深月」の最大の特徴です。
作者自身も、インタビューで下記のように話しています。
もしタイムマシンが開発されて、自分の本を何か一冊昔の自分に送れるとしたら、私は『かがみの孤城』を選びます。
きっと当時の私が「この本を書いた作者のことを尊敬する」って言ってくれるような作品になったんじゃないかなと思っています。
「孤城」や「オオカミさま」の謎
また、しっかりとしたミステリー要素もあり、徐々に明かされていく謎に驚きます。
特に孤城や「オオカミさま」の真相には、心を揺さぶられました。
上述した「感情の動き」と相まって、事件を解決するような推理ものとは違った感動を味わえます。
読みやすい文体・分量
ハードカバーの本文は550ページほど。
難しい漢字などは少ない、読みやすい文体です。
登場人物の会話も多いので、読書初心者でもきっと大丈夫!
中盤からは、読むのをやめられなくなるくらい引き込まれました。
シックでかわいい、少し不気味な装画・装幀
シックなデザイン、かわいらしい女の子と、それを覗くオオカミ顔の少女。
題名の文字は割れたように表現されています。
この作品を的確に表現した、美しい表紙ですね。
これらの装画を担当したのは禅之助さん。
ファンタジー系の絵が素敵で、書籍の装画や挿絵を多く手がけています。
こちらのpixivページで表紙を見られますよ!
目次のページでは、孤城に招かれた少年少女の顔が確認できます。
それぞれの特徴がよく分かりますので、誰が誰なのか当てはめてみると面白いかも。
表紙をめくったところにいるオオカミさまも、ぜひ見ていただきたいポイントです。
また、装幀はデザイン会社next door designの岡本歌織さん。
特に秀逸なのが、扉の印刷デザイン。
一見すると気付かないほど、さりげなく仕掛けがほどこされています。
書籍の「扉」とは、ハードカバーの表紙を開き、オオカミさまが描かれた「見返し」ページをめくった、次のページです。
ぜひ一度、お手にとって確認してみてくださいね。
参考サイト
日々のラクガキ│禅之助tumblr
禅之助(@rakugaki100page)さん | Twitter
4:作者:辻村深月
辻村深月は1980年生まれの女性作家。
「冷たい校舎の時は止まる」で「メフィスト賞」を受賞しデビューしています。
また「鍵のない夢を見る」で、第147回直木賞を受賞しました。
ミステリー・推理小説といったジャンルを多く執筆しています。
前述した通り、若者の繊細な心理描写や、謎が徐々に明らかになっていく作品構成が大きな魅力です。
辻村深月の他作品
多く作品を執筆していますので、代表作を記します。
「ツナグ」は同名の映画にもなりましたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか?
(ちなみに続編「ツナグ2」も連載されていますが、2018年7月時点で単行本化はまだされていません)
他にも数々の長編短編を出版、アンソロジーにも参加しています。
「かがみの孤城」を読んで「もっとこの人の作品を読みたい!」と感じた方は、ぜひお手にとってみてくださいね。
参考サイト
「メフィスト賞とは?」webメフィスト|講談社ノベルス|講談社BOOK倶楽部
「直木賞受賞者一覧」公益財団法人日本文学振興会
この本大好きです!