「紙の動物園」は、ケン・リュウのSF作品です。
日本では特に、ハヤカワSFシリーズで刊行された日本オリジナルの作品集をいいます。

お笑い芸人でもあり芥川賞作家でもある、ピースの又吉直樹さんも推薦したこの書籍。
又吉さんの推薦文は帯にもなったため、本屋で気になった方は多いのではないでしょうか。

この「紙の動物園」とはどんな本なのか、表題作のあらすじやその他の短篇一覧や、魅力をお伝えします。

「紙の動物園」とは?

「紙の動物園」は、2015年4月に「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」に発売された、SF(サイエンスフィクション)の作品集です。

日本では2017年4月に、第二作品集「母の記憶に」が刊行されています。

その「訳者あとがき」で訳者・古沢嘉通さんは、第一作目「紙の動物園」について、以下のように書いています。

第一弾『紙の動物園』は、訳者自身も驚くほどの高い評価を得た。
『SF が読みたい!2016年版』で発表された「ベストSF 2015[海外篇]」および第六回 Twitter 文学賞海外部門で、二位に圧倒的な得点差をつけて一位に選出され、二〇一六年本屋大賞翻訳小説部門でも二位に選ばれた。
売れ行きも好調で、初版発売三日後に重版が決まり十ヶ月間で十一刷に達した。

その後は文庫化。「紙の動物園」と「もののあはれ」に二分冊されました。

短編としての「紙の動物園」も、輝かしい受賞歴を持っています。

2012年度ネビュラ賞・ヒューゴー賞・世界幻想文学大賞の各短篇部門(史上初の三冠)
第45回星雲賞海外短編部門
第25回SFマガジン読者賞海外部門
2013年度イグノトゥス賞海外短篇部門(スペインでのヒューゴー賞にあたる)
2012年度スタージョン賞第三席(英語圏のSF短篇で審査される賞)

国を越えて様々な賞を受けていますね。

日本での人気は、日本語訳を担当した古沢嘉通さんの読みやすく美しい文章も、多大に貢献しているのではないでしょうか。
翻訳によって、作品は大きく印象が変わるもの。
ケン・リュウ自身もそれを憂い、中国人作家の作品を翻訳、英語圏の人々に伝えています。

ちなみに「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」は、独特の大きさとビニールのカバー、小口や天の美しさが特徴的。

「紙の動物園」小口・天
「紙の動物園」小口・天。わざわざ色が塗られています

(小口は本のページで外側に当たる部分、天(てん)は本の頭に当たる部分です)
ただ本棚に並べるだけでも、読書通の雰囲気が出ますよ。

逆に、持ち運びするなら文庫の2分冊がおすすめです。用途やお好みに合わせて選んでくださいね。
 

参考サイト

ハヤカワ・オンライン「紙の動物園」(種類:単行本)
ハヤカワ・オンライン「紙の動物園」(種類:文庫)
ハヤカワ・オンライン「もののあはれ」(種類:文庫)

作者:ケン・リュウとは?

ケン・リュウ(Ken Liu)は、中国系アメリカ人。中国で生まれ、11歳の時から現在までアメリカに在住しています。
弁護士やプログラマーを経験しつつ、中国語書籍の翻訳者として働きながら創作活動をしていました。

「中国系アメリカ人」、ここがポイントです。
彼の作品には、東洋のしきたりや伝統、考え方をベースに創られたものが多く存在します。
それがとてもしっとりとした叙情を生み出しており、作品の大きなスパイスとなっているのです。

日本では短編SFが有名ですが、それに加え長編作品も執筆。
長編ファンタジ-「蒲公英(ダンデライオン)王朝記」(原題「The Grace oh Kings」)が、2016年ネビュラ賞を受賞しています。
「ネビュラ賞」はSF・ファンタジー作品に贈られる文学賞として、アメリカで最も有名なものなんです!

また2017年には「STAR WARS ジャーニー・トゥ・最後のジェダイ ルーク・スカイウォーカーの都市伝説 」というジュニアノベルを発売しています。
(後者は翻訳され、2018年1月に日本で発売)

現在でも中国の作家を英語に翻訳するなど、翻訳家としても活躍中です。

参考サイト

Ken Liu公式ホームページ(英語)
ヒューゴー賞ホーム(英語)
wikipedia「ネビュラ賞長編小説部門」

「紙の動物園」あらすじ

アメリカ人の父親と、英語を話せない中国人の母親の間に生まれた主人公。
母親が紙で折る虎や水牛は命を与えられ、まるで魔法のように生き生きと動き回っていました。
幼い主人公はそれらと楽しく遊びますが、アメリカで成長するにつれ、中国人である母を疎ましく感じてきます…。

短篇ですので、あらすじは短くここまで。
折り紙が動き出す理由などは語られておらず、SFよりもファンタジーに近い作品です。

特に終盤、「清明節」(せいめいせつ、死者を慰める中国のお祭り)での出来事や「愛」に関するくだりが、読者の感動を誘います。
2段組でも20ページに満たない作品ながら、ここまで深いテーマを掘り下げられるのか、と驚いてしまいました。

「紙の動物園」の短編一覧

「紙の動物園」に収録されている作品をご紹介します。

紙の動物園
もののあはれ
月へ
結縄(けつじょう)
太平洋横断海底トンネル小史
潮汐
選抜宇宙種族の本づくり習性
心智五行
どこかまったく別な場所でトナカイの大群が
円弧(アーク)

1ビットのエラー
愛のアルゴリズム
文字占い師
良い狩りを

もののあはれ

この中で一際気になるのは、分冊時の題にもなった「もののあはれ」ではないでしょうか。
原題もずばり、「Mono no aware」。日本人が主役の作品となっています。

宇宙にて過酷な判断が必要になったとき、主人公はふと、父と打った碁を穏やかに回顧する…という短編です。
日本人の性格がうまく反映されていたり、俳句が出てきたりと日本のエッセンスが満載。
普通に読んでも「エセ日本人」にはならず、切なく叙情的な雰囲気に満ちています。

1ビットのエラー

他にも「1ビットのエラー」は、ケン・リュウが何度も書き直していくうちに「ライターズ・ブロック」(作家が文章を書けなくてなってしまう心理状態)に陥ってしまった作品。
プログラムと同様に、脳が1ビットだけでもエラーを起こせば、人の信仰や記憶は変化するのではないか、という短篇です。
ケン・リュウのプログラマーらしい世界の捉え方を示しています。
ちなみに、同じ中国系アメリカン人の英語圏SF作家であるテッド・チャンの短篇「地獄とは神の不在なり」に着想を得たそうです。


最後に、第一・二弾ともに翻訳を担当した古沢さんは、訳者あとがきにてこのように書いています。

最近のケン・リュウは、執筆の中心が長篇と中国SFの翻訳に移行し、短篇執筆ペースがガクンと落ちた。(中略)
ただ、質は保たれているため、この先も第三弾・第四弾とケン・リュウ紹介を続けていけるだけの作品は揃っている。本書が第一弾に劣らないくらいの評判になり、新たな作品集を編めることを期待して、ひとまず筆を擱(お)く。

これからも短篇集を出すだけの作品はたくさん揃っているとのこと。とっても楽しみです!
「紙の動物園」を読んでケン・リュウの世界観に魅了された方は、ぜひ続刊「母の記憶に」もお手にとってみてくださいね。

コメントを残す